「真実告知」って何?

皆さんは、「真実告知」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? 仰々しい響きを持つこの言葉は、特別養子縁組に関連した言葉です。「自身の出自について子ども本人に正しく伝える」という意味です。子どもが養子であるということは、早いタイミングで伝えるべきだという考え方が、現在では主流になっています。自分のこととして、自分の友達のこととして、このコラムによって「真実告知」についての知識を深めていただければ幸いです。

ひと昔前までは、養子を迎えた親は子ども自身にそのことを隠しておくことが一般的だったようです。コミックなどで、自分自身が養子であり、両親と血縁関係がないということを思春期になって初めて知った子どもが思い悩むといったストーリーを読んだことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それでは、そういった子どもたちの両親は、なぜ血縁関係がないということを子どもに隠してきたのでしょうか? もちろんそれは、養親たちの愛情からだったのでしょう。子どもを実子と同じように愛し、育てているのだから、養子であることをあえて告げる必要はないという考えも、そこにはあったことでしょう。あるいは、真実を告げることは平穏な親子関係を破壊することにつながるおそれがあるのではないかという危惧を感じて事実を隠していたのかもしれません。

そんな親たちの気持ちは、痛いほどよくわかります。よその家庭と同じような何気ないふだんの生活、それがたったひとこと事実を伝えるだけで崩れ去るかもしれないとしたらどうでしょうか? 誰だってなかなか勇気は出ないし、何かと理屈をつけてそのタイミングを引き延ばしたくもなるでしょう。でも、養親が養子を思う愛情からのその引き延ばしが、結果的に引き延ばせば引き延ばすほど養子を長期間にわたって欺くことになり、傷つける結果になるかもしれないとしたらどうでしょうか?

みずからの出自を知ることは誰にとっても基本的な権利で、そのことは「児童の権利に関する条約」で国際的にも明言されています。養子たちは偽りの「ライフストーリー」を養親から与えられて育つよりも、幼いうちから「真実告知」を受けて育てられるべきだという考え方が、現代では当然となっているのです。繰り返しますが、隠しておくべきか、真実を伝えるべきか、二者のどちらを選ぶ方がよいか?という問題なのではなく、「真実を知ることは子どもの基本的な権利」だということなのですね。

真実告知がなされなかった場合、遅かれ早かれ子どもはみずからの出自を知ることになるでしょう。自分と両親とが特別養子縁組によって親子となったという事実は、戸籍に明記されているからです。進学や就職、結婚などのタイミングで自分自身の戸籍を見て、初めて事実を知ったときの子どものショックははかり知れません。それ以前に、「自分は両親のどちらにも似ていない」ということに気づき、ひそかに悩むケースも多いようです。それまでに気休めのようなことを周囲から言われていたとすれば、「周りのすべての人からだまされていた」という思いを子どもが持つのも無理はないでしょう。「周囲の誰が真実を知っていて、誰が自分に嘘をついていたのか」と疑心暗鬼になり、周りの何もかもが信じられなくなってしまったら大変な不幸に陥ります。自己のアイデンティティ崩壊にもつながることから、それまでの人生を否定し、非行に走るケースもあるようです。そのような悲しいことは防がなければなりません。よりよい生育環境を与えたいと考え、せっかく子どもを養子として迎えたのに、正しい真実告知を怠ったばかりに生育途上で子どもを大きなアイデンティティ・クライシスの渦中に放り込むようなことになってしまったらどうでしょう? 子どものその後の人生の軸を悪い方向へ大きく傾かせてしまうようなことにもなってしまったら、子ども自身の人生も、それまでの養親の努力も、むなしいものになってしまうのではないでしょうか?

真実告知を行うには、子どもが幼いうちの方がおおむねよいとされています。「子どもの目の前にいる親は生物学的な実の親ではないこと」「実の親は別に存在すること」「実の親に事情があって、子どもは養子となったこと」「養親たちが心から望み、子どもを家庭に迎えたこと」「迎えたときも現在も、そして未来も変わらず、養親は養子に愛情を持ち続けていること」、養親たちが真実について心を込めて語れば、養子もまたそれを素直に受け入れられるのではないでしょうか? 真実の素直な受け入れのためには、子どもが幼いうちの方がより自然に運ぶのです。

養親から養子への真実告知を助けるツールとしての絵本も何種類かあり、容易に手に入ります。親が自分たちで手づくりするというのもよいアイデアです。世界にたった一人しかいない子どものための世界にたった一冊の絵本というものもすばらしいものではないでしょうか? これらの絵本は養親から養子への真実告知のためだけではなく、一般の親子にもぜひ身近にふれてみることをおすすめします。世の中にはいろいろな親子がいて、いろいろな家庭があり、どの家庭もかけがえのないものだということを幼いうちからすべての子どもたちに知ってもらうことは、子どもたちが社会の多様性について学ぶよい機会ともなるでしょう。実子として育つ子どもも、養子として育つ子どもも、どちらも区別なくこのことを理解し合える社会環境の実現が理想ではないでしょうか?

真実告知は養子がごく幼いときに行うのがよいとお伝えしまたが、ただ一度行えばそれでよいというものではありません。子どもの理解力は、その発達段階に応じて異なります。その時その時の子どもの年齢に応じた語り口で、何度でも繰り返し行うことが必要なのです。養親からの愛情を常に十分に感じ、かつ養子であることを自然に受け入れた子どもは、決して卑屈になることはありません。本人が正しく事実を知っていれば、周囲も変に気をつかって不自然な接し方をする必要もないのです。子どもはあるがままを受け入れ、自然にのびのびと育っていくことでしょう。そのためにも、一人でも多くの方々にこの「真実告知」についての正しい理解を深めていただければ幸いです。